校長室より(22)Aちゃんの話〜育てたのか、育ったのか(前編)

 Aちゃんと出会ったのは、彼が年中、私が教職12年目の春。知的障害、聴覚障害と口唇口蓋裂のほか、全身いたるところに疾病のあるAちゃんは、立位はとれるが移動はハイハイ、相手の顔を見てうなるような声で彼なりに要求を伝えていた。
ご家族の期待は、歩行と明確な要求表現(家族にも何を要求しているのかくみ取ることが困難だった)。
 Aちゃんのお気に入りを探り、あれこれ試みた結果、ボールプール(ひたすら潜り込む)、新聞シャワー(ちぎった新聞紙を顔面に浴びてご満悦)にたどり着いた。 Aちゃんはお気に入りをもっともっと楽しみたくて、相手を見て人差し指を立てて声を出す(もう1回お願い)を身に付けた。
次は、あらかじめ用意していたボールやちぎった新聞を棚に置くことにした。自分で用意する手順を加えても、Aちゃんは、楽しむためにボールや新聞の切れ端をせっせと運んだ(手伝っての要求を目論んだのが、不発)。
 そこで、Aちゃんの手が届かない所に置くと、彼はすっくと立ち上がり、ボールや新聞の切れ端を両手いっぱいに取り出した。こぼしたりばらまいたりしないように床に置くことを繰り返すうちに、動きも俊敏になった(また不発)。
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