校長室より(23)Aちゃんの話〜育てたのか、育ったのか(後編)

 そこで、Aちゃんの手が届かない所に置くと、彼はすっくと立ち上がり、ボールや新聞の切れ端を両手いっぱいに取り出した。こぼしたりばらまいたりしないように床に置くことを繰り返すうちに、動きも俊敏になった(また不発)。

 以上、前号再掲

 いよいよ棚の上に置くと、Aちゃんは怒り、ついに私に助けを求めた。ここで、母親に手伝ってもらいながら、欲しい物を指さして声を出す(お願い、取って)を身に付けた(三項関係まであと一歩)。
 ここで、夏休み。母親と姉(弟思いの優しいお姉ちゃん)は、Aちゃんが求めていることが分かるようになったと喜んでくれたが、歩行の課題は残った。

 夏休みが終わり、玄関で待っていると、Aちゃんが車から降ろされました。ここまでは、いつもどおり。しかし、その後が違いました。Aちゃんが満面の笑顔ですたすたと歩き出しました。その後ろを母親と姉が笑顔でついてきます。
 指導後、スタッフ一同、Aちゃんが歩けるようになったことで盛り上がっていると、スーパーバイザーから一言。
「それは、あなたがAちゃんを育てたのですか、Aちゃんが育ったのですか」
そうです。歩けるようになった要因を明らかにすることがプロの役割、仕事なのです。

校長室より(22)Aちゃんの話〜育てたのか、育ったのか(前編)

 Aちゃんと出会ったのは、彼が年中、私が教職12年目の春。知的障害、聴覚障害と口唇口蓋裂のほか、全身いたるところに疾病のあるAちゃんは、立位はとれるが移動はハイハイ、相手の顔を見てうなるような声で彼なりに要求を伝えていた。
ご家族の期待は、歩行と明確な要求表現(家族にも何を要求しているのかくみ取ることが困難だった)。
 Aちゃんのお気に入りを探り、あれこれ試みた結果、ボールプール(ひたすら潜り込む)、新聞シャワー(ちぎった新聞紙を顔面に浴びてご満悦)にたどり着いた。 Aちゃんはお気に入りをもっともっと楽しみたくて、相手を見て人差し指を立てて声を出す(もう1回お願い)を身に付けた。
次は、あらかじめ用意していたボールやちぎった新聞を棚に置くことにした。自分で用意する手順を加えても、Aちゃんは、楽しむためにボールや新聞の切れ端をせっせと運んだ(手伝っての要求を目論んだのが、不発)。
 そこで、Aちゃんの手が届かない所に置くと、彼はすっくと立ち上がり、ボールや新聞の切れ端を両手いっぱいに取り出した。こぼしたりばらまいたりしないように床に置くことを繰り返すうちに、動きも俊敏になった(また不発)。

校長室より(21)「魔法の生活」を送らせない

10年ほど前に書いたものです。

重複学級のお楽しみ会の準備を参観しました。一人一人がそれぞれの役割を果たしながら、楽しそうに準備を進めていました……キャリア教育。
ついつい時間を有効に使おう(?)と、放課後時間等に教師が準備をしていまいがちですが、準備から片付けまで体験させることが大切です。物事には始まりと終わりがあることを体感しながら知る、見通しをもつ等々、とても有意義なことです。
準備活動をとおして、さまざまな教科等の指導を行うこともできます。
ある先生は、ミニ・ツリーにオーナメントを掛ける生徒に、掛けるにはちょっとがんばって手を上げなければならない高さに調整していました……保健体育、自立活動。
また、ある先生は、生徒の所作を言語化して伝えていました……国語、自立活動。
「授業に関する考察2013.5.31(小出特別支援学校、小網)」

席で待っていると、先生がどこかから教材を運んでくる。指示どおりやりとげると、先生がどこかへ持って行く。作業や活動は楽しかったけど……、突然の連続なんだ。

これが「魔法の生活」です。魔法の生活では、因果関係や時間感覚の理解、わくわくする喜びを育てるせっかくのチャンスが生かし切れないと思われてなりません。
準備と片付けをとおして、準備は始まり、片付けは終わりを意味することが分かってきます。始めと終わりとで変化するもの(材料)(自分の気持ち)があり、変化しないもの(道具)もあることの理解も進みます。さらに、必要なものをそろえることは、見通しをもつことにつながります。何より、自ら働きかける姿勢が身に付きます。
小学部も中学部も、サーキット走の際に、子どもがコーンやバーをセッティングし、片付けています。さすがふれあいの教育です。ぜひ続けてください。そして、学校生活全般で、こうした学びの機会を設けましょう。

校長室より(20)自ら学び取る子どもを育てる(その3)

学びは、MT(メインティーチャー)を見て、説明や指示を聞くことから始まります。このとき、子どもはMTに注目します。注目していない子どもには、MTが注目を促し、必要に応じてST(サブティーチャー)がそれを支援します。注目できたら、MTが認めます(ほめます)。
【ポイント1】
STが注目を促したりほめたりすると、子どもはSTに注目してしまいます。
某教授風に言うと、「MTは見なくていいぞ」ということです。
次に、子どもが参加・活動します。このとき、MTは、自力で参加・活動している子ども(一歩リードしている子ども)をモデルに、十分にできていない子ども、困っている子どもに働きかけます。STは、必要に応じて十分にできていない子ども、困っている子どもを支援します。
そして、多くの参加・活動している子ども(半歩リードしている子ども)をモデルに、困っている子どもに働きかけます。STは、必要に応じて、困っている子どもを支援します。
【ポイント2】
STは特定の子どもだけを支援するのではありません。その学習集団の十分にできていない子ども、困っている子ども全員が支援の対象です。時に、モデルタイプの子どもが支援を必要とすることもあります。STは全員を視野に入れて支援します。
最後は、子どもがMTに報告に行き、評価を受けます。このとき必要に応じて、MTは報告がより適切になるように働きかけます。
【ポイント3】
STは、(1)他児に注目させる、自らモデルを示して報告を促す(2)MTの指示で補充指導をする(3)報告のモデルを示す、報告を介助する等の支援をします。
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